先日、ドイツで活躍されている理学療法士の清水遼さんをゲストにお迎えし、「海外で働く理学療法士の魅力と苦労」をテーマに座談会をPT-OT-ST.NETで主催しました。
座談会には、これから海外での活動をするか悩まれている方、実際にドイツで免許の書き換えに挑戦中の方、日本でスポーツチームに帯同している理学療法士の方々にご参加いただきました。
清水遼さんは、ドイツで現地クリニックに勤務しながら、日本人選手も活躍するドイツサッカーチームで選手たちのケガやコンディションを支え、日々活躍されています。日本人が海外で働くためには言語や文化の壁などさまざまなハードルがあるなか、清水さんの講演では、ドイツへ渡航してから理学療法士として働くまでの道のりについて実体験を交えながらお話しいただきました。
座談会では語学やスポーツ現場など、治療場面における具体的な症例について活発な意見交換が行われました。本記事では、座談会の様子を一部ご紹介させていただきます。
司会 清水さん、本日はよろしくお願いします。まずはドイツでの活動について教えてください。
清水さん よろしくお願いします。私は日本で理学療法士免許を取得し、1年半ほど総合病院で勤めた後にドイツへ渡航しました。学生時代からスポーツ分野に関わりながら海外で働きたいと考えていたものの、なかなか行動には移せていませんでした。
しかし、動くなら今しかないと思い、意を決してドイツへ行き4年ほど経ちました。現在は現地のクリニックに勤めながらサッカーチームのフィジオとして帯同しています。
クリニックでの主な業務は、整形外科領域患者・スポーツ選手のリハビリテーション、グループトレーニングの管理です。サッカーチームでは、練習前後の治療や試合中の緊急時対応をしています。状況によってはウォーミングアップなどアスレティックトレーナーの仕事を行うこともあります。
◾️理学療法士免許書き換えまでの道のり
司会 ドイツで理学療法士として働くためにどのような対応をされてきたのか教えてください。
清水さん ドイツで理学療法士として働くには、まず日本の資格(理学療法士免許)をドイツで認めてもらう必要があります。そのためには、ドイツ語での認定試験に合格するか、800時間または5ヶ月の追加講習を受ける必要があります。なぜなら、日本の養成校では実習時間が800時間ですが、ドイツでは1600時間が必要であり、そのギャップを補う必要があるからです。
私は、実習時間の不足分を補うためにMainz大学病院で9つの科をローテーションしながら実習を受け、附属の養成校で追加授業も受講しました。
ドイツでは、日本と異なり理学療法士が精神科や産婦人科でも幅広く活動します。例えば、アルコール依存症や精神疾患を抱える患者さんのリハビリや、産後のリハビリにも関わります。そのため実習時間だけでなく、学ぶ分野も広いためとても学びになりました。
その後、講習時間を満たしたのですが、認定試験(口頭試験と筆記試験)も受けることになり、全てドイツ語で試験をうけ、ようやく免許の書き換えができました。言語や文化の違いにより海外で働くことは簡単なことではないと実感していますが、暮らしの楽しさや日々学ぶことへの楽しさも感じています。
清水さん 実習時間の違いからもわかるように、ドイツでは実技や現場での経験が重要視されています。国家試験も、日本は筆記試験を1日で終えますが、ドイツでは1ヶ月間かけて筆記試験と実技試験を受けていきます。
また、ドイツでは追加研修制度があり、それぞれ資格を取得するとリハビリテーションの加算が取れる仕組みになっています。私も「機械を利用した運動療法」を取得し、現在は徒手療法を学んでいます。
取得するまでには2年ほどかかりますが、常に新しいことを学べるためとてもやりがいを感じるのが魅力の一つです。
このように、教育の違いから免許の書き換えが完了するまでに時間はかかりましたが、ドイツ語の勉強にもなったため、とてもよい経験になりました。免許書き換えまでの詳しい流れはnoteにまとめているので、よろしければご覧ください。
■ ドイツで働く魅力と課題
座談会の前半では、ドイツで理学療法士として働くまでの道のりについてお話いただきました。後半の質疑応答時間では、参加者から「ドイツと日本の違い」や「働く上での課題」に関する具体的な質問が寄せられました。以下では、清水さんが丁寧に答えてくださった内容について一部をご紹介します。
ー 理学療法士の開業権について
Q.ドイツと日本の違いについてお聞きします。ドイツでは理学療法士に開業権はあるのでしょうか?
清水さん ドイツでは理学療法士に開業権があります。整形クリニックの数も多いのですが、その多くは理学療法士が運営しており魅力の一つでもあります。
ただし、理学療法士がリハビリテーションの処方箋を出すことはできません。そのため、ダイレクトアクセスではなく、病院で医師が発行したリハビリテーション処方箋が必要になります。
また、ドイツの処方箋は「徒手療法」「リンパドレナージ」といったように、日本よりも具体的な指示が書かれています。そのため、処方箋に記載された内容以外のリハビリテーションを行うことは禁止されています。
ー ドイツの入院日数について
Q.ドイツでは入院日数が短いと聞きましたが、実際はどうですか?
清水さん ドイツでは、総合病院で人工股関節の手術を受けた場合でも、手術の3日後には歩いて退院するケースが少なくありません。
なぜ3日で退院できるのかについては私の仮説ですが、ドイツ人は日本人と比べて痛みの閾値が高く、痛みを感じにくいのではないかと思います。実際、術後2日目で痛みの強さがNRS2程度に下がっているという論文もあります。
私が働いているクリニックでも、人工股関節の術後4〜5日目の患者さんが歩いて通院され、予後も良好です。また、長期入院する文化があまりないこともドイツの特徴だと思います。
※ NRS(Numerical Rating Scale):痛みの強さを0〜10の11段階で評価する指標ー ドイツ語の習得について
Q.ドイツで働くためには、どのくらいドイツ語が話せる必要がありますか?
清水さん ドイツ語の語学レベルでは、B2が労働可能なレベルとされています。私はB2を取得するために1年間語学学校に通いました。
病院での実習中は、B2のレベルでなんとか理解できる状態でしたが、現在はC1に合格することを目標に勉強を続けています。
ー スポーツ現場における理学療法士とアスレティックトレーナー(AT)の役割
Q.ドイツのスポーツ現場では、理学療法士とATの役割はどのように分かれていますか?
清水さん ドイツでは、アスレティックトレーナーがウォーミングアップなど、アスリートのパフォーマンスをサポートする役割を担っています。一方、理学療法士は治療を中心に行っています。
理学療法士もパフォーマンスに関わることはありますが、その点ではアメリカなどと比べてまだ発展途上だと感じます。私が所属しているサッカーチームやクリニックでは、正しい知識を持ち、徒手療法で痛みを解消することが求められています。
また、ドイツのクリニックでは、必ずリハビリテーション用の個室が設けられており、治療用ベッドで徒手療法を行う機会が多いです。
ー ドイツでのインターンシップについて
Q.ドイツでのトレーナー体験はできるのでしょうか?
清水さん 私がドイツへ渡航した後にインターンスタッフとして参加したバサラマインツでは、1年間のインターンシップと2週間の短期インターンシップを受け入れています
バサラマインツは、メディカルインターンスタッフとして、選手だけでなくスタッフも含めて「世界に通用する日本人を育成する」をコンセプトに活動します。
現在、ドイツ6部ですが、ブンデスリーガ3部参入を目標として、共に戦ってくれる志の高い方を募集しています。主に治療と受傷後の復帰リハビリを行います。詳細はnoteに掲載しているので興味があればぜひご連絡ください!
Xにて「
#FCBMメディカルインターン」を検索するとインターンシップの様子が動画でわかりやすく掲載されています。
清水さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。今回の座談会を通じて、海外に挑戦する理学療法士の方々さらなるご活躍を心から願っております。
清水さんのSNSでは、インターンシップの様子やスポーツ現場の様子が掲載されています。ドイツ・バサラマインツでのインターンシップ、海外で働くこと、スポーツ分野でのキャリアに関心のある方はぜひご覧ください。個別相談等もされているため、興味関心のある方はSNSにて直接ご連絡ください。
清水遼さんSNS
X
@ryo_shimizu_ptInstagram
@ryo_shimizu_pt
参考
◾️バサラマインツHP https://basara-mainz.com/