大阪府理学療法士会(以下、府士会)は、2018年より学術局を「大阪府理学療法士会生涯学習センター(以下、センター)」として分離独立し、理学療法士の生涯学習のサポート、人格、倫理、学術機能の研鑽を支援する学術事業に特化した活動を行っている。
学術局を独立した法人として運営する点は、他都道県と異なる特徴となっている。理学療法士が急増する中、会員への研修事業の量・質ともに向上を図り、府士会の底上げを目指して取り組みが進んでいる。
今回、学術局を独立法人として設立するに至った経緯や、2018年から取り組んできた事業内容について同法人の中川法一理事長にお話を伺った。
ー 生涯学習センターが立ち上がるまでの経緯
中川法一 理事長(以下、中川) 大阪府理学療法士会生涯学習センター創設の背景には、府士会が抱える2つの大きな課題がありました。
まず、会員数の増加に伴い、サービスの質が低下する懸念があり、公益事業を主軸にしている府士会では、この問題に十分対応できなくなっていました。また、府士会の財政状況も低調で、この状態が常態化しつつあるという課題もありました。
理学療法士の急増により、質の低下が懸念される中、私たちは「学びの集団」を形成したいと考えていました。会員が主体的に学ぶために、理学療法士会が行う研修事業は非常に重要だという共通認識がありましたが、府士会は組織全体での均等な活動と予算配分が求められていました。
全体予算の20%が学術局に配分されていましたが、約9,000名の会員を対象に何度も研修事業を行うには、明らかにリソースが不足しており、当時の研修会は年に6回程度しか開催できませんでした。
一方で、府士会の財政問題も深刻で、退会者の多くが年会費の負担を理由に挙げていました。会費の値下げは喫緊の課題でしたが、大規模な会員数に対応するための財政的な課題もありました。新人研修を行うためには、1,000名以上収容できる会場が必要であり、そのための経費が大きな負担となっていました。また、研修会や学会参加費を無料にするという方針が、コストを増大させ、資金不足を招く一因となっていました。
このような状況を解決するために、学術局を分離独立させ、研修事業の質と量の向上を図ることを目指しました。また、収益事業として自立し、府士会にキャッシュバックを行うことで、会費の値下げを実現しようと考えました。
当初は、会員向けの研修サービスを充実させることを目標としていましたが、それを実現するためには、経済的基盤の抜本的な見直しが不可欠だと判断しました。
批判を受けながらも、結果的に公益社団法人から学術局の機能を分離独立させ、2018年4月2日に『一般社団法人大阪府理学療法士会 生涯学習センター』としてスタートしました。
ー 独立した団体にして生まれた変化
中川 府士会学術局は2名の担当理事で運営の統括をしていましたが、現在の9名に増え、4局11部体制で活動しています。その結果、研修会の質と量が大幅に向上し、今年度のオンライン研修会は60回も計画され、順調に実施されています。
また、大阪府理学療法学術大会をはじめ、ハンズオンセミナーを集中的に開催する生涯学習研修集会や3士会合同研修会、その他講習会など多様な研修事業ができるようになりました。
大阪府は市区町村ごとに理学療法士会があるため、会員の研修機会がとても多く量的担保が既に確保できた状態となったことも特徴です。センターはコンパクトな組織であるため意思決定が迅速化し、コロナ禍では全国に先駆けてオンライン学会を開催できました。
センターの設立を機に研修会・学会参加費を有料化へ舵を戻しました。最初は会員からの抵抗の声が上がりましたが、受益者負担の原則が会員に理解され、会費の公平性が向上しました。
また、府士会の経済的基盤の安定化が裏側の重要なミッションとしていました。研修事業の運営は3年目からプラス収益を上げるようになり、府士会からの分担金は2025年度にゼロにする予定です。これにより、2024年度から府士会費を10%(1,000円)下げることができ、さらなる値下げも見込まれています。
ー 中川理事長よりコメント
中川 結論を先に申し上げますが、センターを創設することが正解だったと思って活動をしてきましたし、今はそれが確信に変わっています。
この度、センターを広く皆さんに知っていただく機会を頂戴したのですが、学術研修事業の話が中心になるべきところ、どうも裏側の財政の話が目立ってしまいましたが、経済的基盤が安定しないと健全な研修事業が展開できないということでご容赦ください。
もちろん、学術面での向上も大いにあった筈ですが、「会員の質向上」「府士会の底上げ」「学ぶ集団」という目標にどれほど近づいたのかは未だ分かりません。
量的担保はできてきた訳ですが研修会への参加者数などでアウトカムを単純に測るものではなく、あくまで理学療法士に対する府民からの信頼度を上げることだと思っています。登録・認定理学療法士の増加はそのプロセスであり手段に過ぎません。
理学療法士の数が増えれば、それをマーケットとしたビジネスが生まれ、研修事業はその核になり得えますが、SNSなどで目にする質が担保されない粗悪な研修に身銭を切って受講する会員をなくしたいのです。もちろん優秀な研修業者もありますが、特に若い会員はその判別ができないのが当然で、“直ぐに使える”などという安直なキャッチに流れてしまいます。
だからこそ、前述の目標を達成するために民間ビジネスでもない、いわゆる学会でもない、歴然とした職能団体が主宰する公的な研修機関として、どうあるべきであり、何をすべきかと常に考えながら、次の展開を考えていく必要があると思っています。
先ほど述べましたように研修事業が爆発的に増えましたので、その企画や運営に関わる会員も大幅に増員しました。多くの会員が公的な活動に関わることで、府士会・センターおよび協会活動への理解が深まり、求心力向上に寄与していることを肌で感じています。
短絡的に何事もアウトソーシングでという発想では得られない、職能団体というベースの組織での活動の良さが再発見できました。特に若い会員が責任感を持ち主体的に激務をこなして行く姿が、次代の士会の担い手が育っていく姿と重なり、とても頼もしく思っています。
今後もセンターは、会員一人ひとりとともに成長し、理学療法士の質の向上と府士会の発展に努めてまいります。皆さまのご支援とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
引用・参考
◾️大阪府理学療法士会生涯学習センター