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2024.07.08

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現へ、重要視されるリハビリテーション



近年、すべての人々が必要な時に、必要な場所で、経済的な困難なしに、適切な保健医療を受けられる状態を目指す概念「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(以下、UHC)」が推進されている。

特にアジアやアフリカなどの国々ではUHCの達成が課題となっており、リハビリテーションを適切に受けられる保健システムの在り方についても議論が高まっている。


WHOが保健システムにおけるリハビリテーションの強化を決議

2023年5月の第76回WHO総会で、保健システムにおけるリハビリテーションの強化に関する決議が合意された。この決議では、UHCに関わる内容として、次のようなリハビリテーションにおける課題に対処することを目的としている。

● 保健の優先順位や研究課題を設定し、資源を配分し、協力を促進し、技術移転を可能にする際に、リハビリテーションに対する認識を高める。

● 保健上の緊急事態により、支援技術を含むリハビリテーションのニーズが急増した場合、各国がそれに対応できるようにする。

● 社会から疎外され、脆弱な状況にある人々が、支援技術を含め、安価で質の高い適切なリハビリテーション・サービスを受けられるようにする。

● 人々がリハビリテーションサービスや支援技術を利用するために、経済的困難を引き起こすような高額な自己負担を避ける。

● 国民のニーズに応えるためのリハビリテーションの労働力が不足している現状に対処する。

引用:Seventy-sixth World Health Assembly – Daily update: 27 May 2023(WHOホームページ)

このWHOの決議を受けて、令和6年4月の参議院予算委員会では、田中まさし議員(理学療法士)が日本のリハビリテーションシステムをアジアやアフリカへの支援として推進することについて質問した。

これに対し、武見敬三厚生労働大臣は、「日本のリハビリ専門職が活躍する包括的な社会システムの経験を、アジアやアフリカに共有することは極めて重要だ」と答弁した。

WHOの決議により、UHCにおけるリハビリテーションの重要性が示され、保健システムの文脈におけるリハビリテーション専門職の存在意義やその役割へのニーズが高まっている。




ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとは

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは、「すべての人が適切な予防、治療、リハビリなどの保健医療サービスを、必要な時に支払い可能な費用で受けられる状態」を意味し、SDGs目標にも導入されている。

WHOによると、リハビリテーションは「健康の促進、疾病の予防、治療、緩和ケア」と並んでUHCの重要な要素に位置付けられている。UHCでは、全ての人々が日常生活動作(ADL)、仕事、レクリエーション、教育への参加における機能的自立を達成し、個人が日常生活で有意義な役割を果たすことを目指している。

そのような背景からも、リハビリテーションは、個人の健康上の利益だけでなく、健康で機能的な世界人口の構築を可能にし、全体的なユニバーサル・ヘルスの目標を達成する上で極めて重要な要素とされている。

また、UHCを達成するためには、物理的アクセス、経済的アクセス、社会・慣習的アクセスの3つのアクセスを改善し、提供されるサービスの質を高めることが重要といわれている。



日本におけるUHCの取り組み

日本を含めたアジア諸外国は、UHCを実現するための具体的な目標として「持続可能なUHCの基盤となる質の高い健康医療データ及び研究システムの構築」と「保健システム強化のための人材開発と知見の共有」を掲げている。

2025年には、UHCに係る知見の共有や財務・保健当局の人材育成を支援する世界的な拠点である「UHCナレッジハブ」を日本に設立する予定となっている。

超高齢社会である日本の取組みや経験を活かし、国際的にUHCを推進する先進的な拠点となることが期待されている。


リハビリテーション専門職が関わるUHC

UHCの達成に向けてリハビリテーション専門職が関わる取り組みの一つとして、国際協力機構(JICA)による国際協力がある。

JICAは開発途上国への国際協力を行っており、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などリハビリテーション専門職の現地派遣を実施している。現地での地域に根ざしたリハビリテーション業務や技能・知識の向上を支援する取り組みは、UHCを実現するための活動といえる。

国内の取り組みでは、被災地支援、災害リハビリテーションはUHCに資する重要な活動である。被災地において必要とする方へのリハビリテーションや、医療を受けられない人への支援の提供は、UHCの概念からもリハビリテーション専門職が関わる重要な取り組みである。

令和6年1月1日に発生した「能登半島地震」では、高齢者に対するリハビリテーションの支援不足が問題になっていた。その状況下の中、リハビリテーションに関わる専門家らによる「日本災害リハビリテーション支援協会(JRAT)」が、被災地で支援を継続して行っていた。

JRATによる避難所の環境整備や、全身の機能が低下する生活不活発病などを発症しないための支援の実践は、すべての人に健康と福祉を提供する上で重要な役割といえる。


このように、災害現場など個別事案にリハビリテーション専門職が関わることは、UHCの推進において、諸外国のみならず国内においても非常に重要な視点である。

日本理学療法士協会は、アジア諸国のUHCと健康・長寿の達成に向けた理学療法の人材育成を目指し、アジア健康構想などの国策との連携も視野に、国際的な活動を実施している。

今後、UHCの実現に向けて、リハビリテーション専門職の積極的な関与がますます重要となり、支援を必要とする方々に適切なサービスを提供する取り組みがより一層求められる。

引用・参考
◾️ ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)(外務省HP)
◾️ Seventy-sixth World Health Assembly – Daily update: 27 May 2023(WHO HP)
◾️ 日・ASEAN UHCイニシアチブ(2017)(厚生労働省HP)
◾️ ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)(JICA - 国際協力機構ホームページ)
◾️ グローバル化と理学療法(日本理学療法士協会HP)
◾️ 2018年世界保健デーのテーマは「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」(厚生労働省HP)
◾️ SDGグローバル指標(SDG Indicators)(外務省HP)

田中まさし議員「日本のリハ専門職教育を高度化していく必要がある」【国会質疑】

2024.04.24
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