島根大学医学部附属病院は、看護師やリハビリテーション専門職などによる患者さんの搬送業務の負担軽減を目的に電動運転サービス「WHILL」を導入した。
WHILLは車椅子型のモビリティシステムで、医療従事者が管制システムを使用して任意の病室に患者さんを送迎することができる。時速約2キロメートルで走行し、小回りが可能で衝突を回避する機能も備えており、患者さんが降りた後は所定の位置に自動で戻る。同病院では、認知機能の衰えがない患者さんが、安全に移動できる一つのツールとして活用されているという。
同病院ではまず整形外科病棟で試験運用を開始。一定の効果と安全性が確保されていることを確認したため、今後は搬送業務負担のある他病棟にも導入していく方針としている。
病棟で患者さんが利用するケースは国内初の取り組みである。今回、同病院リハビリテーション部の江草典政さん(療法士長:理学療法士)に、導入に至った背景や、現場スタッフの声などについてコメントをいただいた。
ー WHILL導入における対象患者の選定方法
江草さん 対象患者さんについては、乗車基準をクリアすれば疾患や手術による制限はありません。対象患者さんの選定にあたって、「機能回復の観点から歩行することが推奨される患者さん」は除外し、負担の軽減だからといって患者さんの回復を阻害するような事はしないようにしようとスタッフ間で申し合わせをしています。
ー 新しい取り組みに対する周囲の受け入れ
WHILLはとても愛らしく、そして毎日一生懸命働いてくれているので”同僚”の様な存在になっています。すれ違うときに思わず手を振ってしまったり、到着すると「お疲れ様」とWHILLに声を掛けたりと職場に馴染んでいます。
患者さんからも、「すごい」「乗ってみたい」と興味を持っていただいており、小児科や外来の子ども達も立ち止まって動きを見てくれています。新たな技術の存在は大学病院の場において「教育のひとつ」としても有効に作用しているように感じます。
ー 現場スタッフの声
現場スタッフからは「WHILLの活用の可能性はもっとありそう」という声が挙がり、今回の1歩が今後の活用に前向きな議論を生んだと感じています。
一方、初めての導入が整形外科病棟であり、リハビリ室と整形外科病棟は同階にあることから比較的搬送の負担が少なく、機能レベルの高い人の利用も多いため、その効果を「強く実感」することはないというのが実情です。
今後はもっとも搬送に労力を割いている診療科などへの導入を検討していく方針です。
ー 今後の展望
私たちリハビリテーション部門のミッションは「未来をカタチに」です。新しい技術には課題もあり、最初から「思い通り」にはなりません。ただ、患者さんにとっては快適な病院生活の実現を、医療職にとってはより専門性を活かせる時間の創出を実現できる可能性のあるツールだと思います。
今後は活用場所、エリアの拡大や新しいトライアルの実施も検討しながら、本院での知見がWHILL社にもフィードバックされることで、医療・介護・福祉施設における未来のモビリティサービスの芽が育つことを願っています。
引用・参考:
◾️ 中四国の病院で初 自動運転モビリティを導入しました【6/4記者会見】(島根大学医学部附属病院HP)
◾️ 島根大病院、自動運転車いす導入 患者移動付き添い不要(日本経済新聞)