理学療法士が開発し、高齢者施設・障がい者施設で活用されているユニバーサルデザインのeスポーツ「UDe-スポーツ」。高齢者の意欲を引き出し、交流を生み出す新たなサービスが熊本県を中心に広がっています。
高齢者だけでなく重度障がい者の方には福祉用具の選定を行い、オンライン通信にてUDe-スポーツを用いた地域交流を創出する取り組みが展開されています。
eスポーツは日本でも認知度が高まり近年では医療、介護、福祉業界にも取り入れられるようになりました。ダイバーシティな社会へ寄与するeスポーツですが、身体機能や年齢によっては難易度が高いなどの課題もあります。
今回、eスポーツを誰もが、簡単に楽しめるように開発された「UDe-スポーツ」について、eスポーツのプレイサポートを行う株式会社ハッピーブレインの理学療法士・矢元さんにお話を伺いました。
◾️UDe-スポーツとは
株式会社ハッピーブレインは、熊本県合志市でeスポーツを用いて重度障がい者や高齢者のリハビリ支援などの事業を展開しています。
今回、既存のゲームでは高齢者には難しく、障がい者施設でもeスポーツを実践してみたいという声をいただいたことをきっかけに、ハッピーブレイン代表が立ち上げた一般社団法人UDe-スポーツ協会でUDe-スポーツを開発しました。
UDe-スポーツは、ユニバーサルデザイン・エレクトロニック・スポーツの略語です。年齢や障がいなどの有無に関わらず、誰でも使えるユニバーサルデザインの視点から考えた新たなeスポーツです。
一般的にいわれるeスポーツは家庭用ゲーム機になるため、高齢者施設等での活用には使用許可が必要になります。また難易度が高かったり、操作のサポートに介護スタッフの負担が増えてしまうなどの課題がありました。
UDe-スポーツはそうした課題を解決するため、オリジナルゲームを開発し、パソコンに繋いで簡単に実施できるゲームにしました。
重度身体障がいを持つ方にeスポーツのプレイサポートを実施する様子
eスポーツは、離れていてもオンライン上で競技することができ、性別や障がいの有無、社交性に関係なく交流を生むことが魅力にあります。
より多くの方にご利用いただくためには操作が簡単であること、ゲーム内容がわかりやすく、身体機能や脳機能の向上につながる仕組みが必要です。UDe-スポーツは、赤・黄・青・緑の4つのボタンで簡単に操作ができ、毎月更新されるオリジナルゲームを楽しんでいただくことができます。
PCに繋ぎ、ボタン操作をするだけで実施ができる
◾️コミュニケーション活性や意欲向上に貢献
オリジナルゲームの中には認知症予防の一環として、脳機能検査ゲームや脳トレ体操、健康にまつわるプログラムがあります。
ハッピーブレインが自治体様と共に行った調査では、UDe-スポーツを定期的に実施することで集中力、注意力の向上が認められました。UDe-スポーツを実施している高齢者サロンでは32/42名がTMT-Bテスト
※1で点数の向上を認められたり、半年間継続した場合に意欲の評価で「活性度」が向上したケースもあります。
近年、外出や交流機会が減少することで意欲の低下につながってしまうことが社会課題として取り上げられています。その点で、eスポーツを通じて交流が生まれ、心身ともに元気になり、レクリエーション参加率の低い男性も積極的に関わっていただけることはUDe-スポーツの大きな魅力であると感じています。
男性もゲームに夢中となり、対戦に励む様子
UDe-スポーツは導入している他の施設とオンライン対戦をすることができることも特徴です。事業所を超えたオンライン交流の中であえて順位をつけたり、対戦をすることで「次は勝ちたい」「今日は上手くできた!」といった持続して楽しめるような工夫もしています。
たとえ外出ができなくても、UDe-スポーツを通じて色んな方と出会えることは意欲向上につながるポイントになると考えています。
またUDe-スポーツを導入することでレクリエーションのマンネリ化や操作サポートに時間を取られる、参加率の低迷などを改善することで現場スタッフの負担を削減することにも繋がります。一方、UDe-スポーツの導入初期やゲーム実施時には、機械操作や順番のご案内などサポートが必要となる場面もあり、施設内でのマニュアル化や定着支援は今後の課題です。
◾️eスポーツの可能性と就労支援
現在は高齢者施設でご利用いただいていますが、重度身体障がいの方にもご利用いただきUDe-スポーツを通してパソコン操作ができるようになり、SNSの代行業務(仕事)を受けられるようになった方もいます。
その方に合う福祉用具を選定することで、重度身体障がいの方でもeスポーツをすることが可能になり、中には就労することも期待できます。今後は高齢者だけでなく、重度身体障がい者の方の就労支援にもつなげていけたらと思います。
UDe-スポーツとは(RKK世界一の九州が始まる!UDe S取材2024 02 25放送)
※1 TMT-Bテスト(Trail Making Test Part B)は数字と文字を交互に結ぶ検査。ワーキングメモリーの評価を主とし、注意力、記憶力、情報処理能力を検査する。
編集後記
スポーツは身体活動だけでなく、達成感や他者との連帯感など精神的な充実感を生み、目的を持たずとも楽しめる活動です。心身ともに健康な生活を送る上で欠かせぬ存在であり、社会参加のきっかけにもなります。UDe-スポーツが目指す「年齢や障がいなどの有無に関わらず、ごちゃまぜになる世界」。楽しみを超えてコミュニティ形成や就労支援など社会課題解決の手段として活用されることに期待が広がります。
参照:
株式会社ハッピーブレインHP
一般社団法人UDe-スポーツ協会HP
リハビテーションに関する情報を広く募集しております。情報提供は
こちら