食事場面では食べられていると評価しても数日後に熱発し、誤嚥していたというケースもあり、かつての評価は評価者によって判断の見誤りが起きるリスクがありました。
そこで実際に食事をしているときに安全な経口摂取ができているかを定量的に評価するための評価法として言語聴覚士の大森政美さんらが『SK式食事場面嚥下機能アセスメント』(以下、SK式アセスメント)を開発しました。
今回、評価法に関する信頼性と妥当性の検討を目的とした研究結果を論文で発表した、大森さんにお話を伺いました。
「している」能力評価の重要性
ー 研究の背景
誤嚥性肺炎は日本人の死因第6位とされ、60歳以上の肺炎患者の70%以上が誤嚥性肺炎だといわれています。摂食嚥下障害があると、誤嚥性肺炎の危険に晒され経口摂取困難のために脱水や低栄養による脳卒中やサルコペニア、フレイルの発症率が高まります。
高齢化率の高まる日本において摂食・嚥下障害との関連は深まり、評価の信頼性も重視されていくでしょう。
ー 目的
そこで私たちが着目したのは、検査時の結果と実際の食事場面における評価の相違です。代表的な嚥下機能評価として嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査がありますが、身体の状態や認知機能が影響し評価が困難な場合があります。
また、訓練によってできる能力の評価以上に、実際に食事を「している」場面の評価が誤嚥を未然に防ぐためにも重要であるといわれています。
しかし、日本摂食嚥下リハビリテーション学会が定める食事の観察評価では、評価項目が限定的かつ定性的な評価であることから評価者によってばらつきが出てしまうことが課題にありました。
効果的な摂食嚥下機能訓練の選択および対応ができ、経験値に左右されない評価をするために評価項目の細分化、定量的なアセスメント評価を取り入れたのが「SK式アセスメント」です。
SK式アセスメントの特徴と評価法
SK式アセスメントは食事の自力摂取の可・不可によって自己摂取版と食事介助版に分けられます。自己摂取版は19項目、食事介助版は18項目で構成され、以下のアセスメントシートを用いて評価を行います。
この評価を用いることで現在の摂取方法や食事形態が適切か判断できると考えます。
摂食嚥下運動5期モデルごとに点数化するため、どの期に問題があるのかがわかり、定期的に評価することで訓練の成果が検証できるようになります。
新たな評価法がもたらす可能性と今後の展望
本研究では、同一患者に対して、同日同時に2名の言語聴覚士(臨床経験18年と5年)で実施しました。臨床経験18年目はSK式アセスメントの開発に携わっていますが、5年目は開発に携わっておらず、両者が同じ評価をすることで評価の妥当性を検討しました。結果、両者での差がなかったことから、経験値の浅い評価者でも評価に必要な項目を見落とさず正確な嚥下機能評価ができ、検査法として十分な信頼性があると考えられました。
またテストが正しく評価されているかの検証として、The Mann Assessment of Swallowing Ability(以下、MASA)とSK式アセスメントを用いて妥当性の検討を行いました。結果、SK式アセスメントとMASAの間に強い相関が認められたため、SK式アセスメントは適切に対象患者の嚥下機能を評価できていると判断しました。
これまで食事場面の評価法の報告は少なく、摂食嚥下運動5期モデルに沿った評価であるMASAにおいても摂食嚥下障害や誤嚥の重症度の判断はできるものの、十分な食事形態の選定は行えず食事場面に適した訓練の選定や成果の評価が難しいとされています。
SK式アセスメントを用いることで摂食嚥下運動5期モデルのどこに障害があるかが明確になり、より障害部位に集中した摂食嚥下訓練が可能になりました。
評価シートを用いることで医師や看護師などチームへ問題を適切に共有でき、言語聴覚士が関われない場面でも同様にアプローチができることも特徴です。
今後はさらに評価項目の妥当性や重視すべき項目の検討をし、誰もが正しく評価できる評価法の開発が期待されます。
具体的な研究方法についてはこちらの論文をご覧ください。
リンク:
https://doi.org/10.11477/mf.6001200397
編集後記
SK式アセスメントのように評価者の経験や患者の状態に影響されずに実施できる評価が開発されることにより、誤嚥のリスクを最小限に止めることだけでなく、評価する言語聴覚士のリスクも軽減できると感じました。
PT-OT-ST.NETは、さらなる医療の発展とより良い未来を目指して活躍するリハビリテーション専門職や団体を応援しています。
引用:大森政美, 他.食事場面における嚥下機能評価法(SK式食事場面嚥下機能アセスメント)の信頼性と妥当性の検討. 言語聴覚研究. 2022, 19(4), 330-339.