歩行評価に用いられる測定技術の発展の歴史を知り、これからどのような技術が出現してくるのか。私たちがそれをどのように活用していくのかを考えたいと思います。
(著者:リハビリテーション医療DX研究会 幹事 奥山航平)本トピックのさらに具体的な内容を「リハビリテーション医療DX研究会 第一回研修会」にて講演予定です。
はじめに
リハビリテーションを遂行する上で、定期的な評価は患者の病態把握や治療効果の検証を行うために最重要です。
そのため、より高精度で多様な情報を得るために、評価に用いる手法はセンシング技術やコンピュータ性能の発展とともにアップデートされ続けています。
本トピックスでは歩行評価に関するこれまでの歴史とこれからの発展について考えたいと思います。
歩行評価のこれまで
歩行動作の測定機器を用いた定量化のはじまりは1880年代まで遡ります。
医学者であり生理学者であったMareyは、人間や動物の動きを分析することを探究し、写真銃を発明しました。写真銃を用いることで1秒間に何枚もの写真を連続的に撮影することが可能となり、さらに得られた像を原板状に多重露光して定着させるクロノフォトグラフィ(時間写真)によって、動きを視覚的に表現することが可能となりました
1。そこから、活動写真機を用いた映像による記録や複数台カメラによる三次元的な歩行分析へと発展が進んでいきます。
時を進め、1980年代における本邦の歩行分析に関する総説
4をみてみると、そこには当時の先端的な分析システムとして、反射マーカーを体表へ貼付して複数台で撮影した映像からスティックピクチャを得る光学式三次元動作分析装置や床反力計、表面筋電計が紹介されています。
筆者には少し驚きでもありましたが、現在において「歩行分析」というワードから連想される機器は30年以上前には完成されていました。裏を返せば、そこから今に至るまで、それらに取って変わるような革新的な技術進化はなされていないともいえます。
1980年代からは、コンピュータ技術やカメラ性能の発展に伴い、処理速度・解像度・精度の向上やソフトウェアの充実がなされてきました。実際に、1986年の飯田らの総説
4では光学的三次元動作分析装置の欠点として、“高価で,ソフトウェア保守,撮影後computer処理が必要で,像を得るまで1時間程要することである。” と記されています。
現代では、数秒で像を得ることができるので、当時の比べ物にならないほど短縮されているといえます。(1つの歩行データを得るために1時間を費やしていた先輩方のことを考えると、環境の整っている私達はより一層の成果をあげなければ、と思わされます。)
時間的な課題が解決された反面、高精度な三次元動作分析を行おうとすると高価だという経済的な課題は不変です。この課題に対して、近年ではセンシング技術の発展によって(比較的)安価で軽量な分析機器が開発されてきています。
例えば、慣性計測装置(IMUセンサ)は角速度センサーや加速度センサーを搭載し、運動体の挙動把握・制御を目的に様々な機器に搭載されています。近年では、無線のIMUセンサとタブレットを通信させ、簡便に定量的な歩行評価を実現する機器が数多くリリースされています。
歩行評価のこれから
センシング技術というハード面の進化に対して、直近の数年ではソフト面の技術革新が驚異的な速度で進んでいます。すなわち、人工知能による姿勢推定技術の発展です。
ヒトが写り込んだ写真と体部位の位置情報(アノテーション)に関する情報を膨大に学習して作成されたモデルにより、自動的にスティックピクチャを得ることが可能となってきています。この技術を用いて、スマホやタブレット1台で定量的な歩行分析を可能とするアプリケーションがリリースされはじめています。
本領域の発展の勢いは凄まじく、精度の向上・処理速度の向上が年単位で行われ、複数眼カメラを同期させての三次元像取得や単眼カメラからの三次元像推定も実現してきています。これらの技術が従来の経済的なハードルを打ち破り、臨床現場へ普及していくことが期待されます。
ウエイトの置き方に違いはあれ、これまでの技術はいかに定量的に・高速に・安価に歩行をデータ化できるかが追求されてきました。これからは、得られたデータをいかに活用するか、までがパッケージ化されていくと考えます。
膨大な量のデータをクラウド環境にプールし、それらの情報を有効活用する人工知能を開発することで、転倒高リスク患者の抽出や推奨する運動の自動提案など、さまざまな形で活用・統合されることが期待されます。
おわりに
リハビリテーション医療DX研究会では、これからの発展を創る、考える、キャッチするというモチベーションのある医療者・研究者・企業人を募集しています!
ご興味のある方は研修会や学術集会に是非ご参加ください!
【引用・参考】
1.Abu-Faraj ZO, Harris GF, Smith PA, Hassani S. Human Gait and Clinical Movement Analysis. In:Wiley Encyclopedia of Electrical and Electronics Engineering, Second Edition, John Wiley & Sons, Inc., New York, USA, pp. 1-34,December 15, 2015. DOI: 10.1002/047134608X.W6606.pub2
2. http://www.vicon.jp/
3. https://blog.tensorflow.org/2018/05/real-time-human-pose-estimation-in.html
4. 飯田 勝.歩行(基礎から臨床まで)1.歩行の生体力学(1)歩行分析の目的,歴史,方法.理学療法と作業療法 20(1),1986.